「《佐伯千尋》は君のお父さんだ。13年前、この世界に僕が招いた《スペードのA》……彼はあれから13年間、君を救うこの日の為だけに、この悪夢の様な世界を生き抜いてきた。沢山の血に塗れながらね」

「どうして……そんな」

「彼は強かった。僕が今まで招いたプレイヤーの中でも、頭脳、運動能力、そして《運》の要素でも、群を抜いて《主人公》に近かった。彼ならなれるのかもしれないと思った。僕の望む《主人公》に」

そう言って少年はクスリと甘く笑うと、俺に向かってカードを投げた。

そのカードはクルクルと回り、そして俺の頬を掠めるギリギリで、壁に突き刺さった。

そして見えたカードに……抉られる様に胸が痛む。

それは《スペードのA》のカードだった。

赤い血で《×》の印が描かれた、《スペードのA》

「でも彼はとっととカードを集めて外の世界に出てしまいそうだったからね。僕は彼に教えてあげたんだ。いつか必ず……《君》をこの世界に招き入れると」

「お前……」

「彼は怒っていたよ。僕を殺そうとする程に。そして彼はすぐに決断したんだ。この世界に残り続けて、君を救い出すと。その為だけに、この世界で生き続けるのだと。それもさっき……終わったみたいだけどね。結局彼は、僕の望んだ主人公ではなかった。彼が僕の前に現れる事は……もうないんだね」

少年は何故か少し寂しそうにそう呟くと、深い溜息を吐く。