「でも俺には……居なかったんだ。大切な人ってヤツ。だからジョーカーがただの黒い影に見えた。だから俺はそいつを殺して、このカードを手に入れた」

そう言って藤谷は自嘲気味に笑うと、それから静かに目を閉じる。

「早くやれ……このままじゃ俺、死んじゃうぜ?」

目を閉じたまま藤谷はおどけてみせるが、それに小さく首を横に振って答えた。

「……できない。俺には……」

「俺も一度くらい《守って》みたいんだ。誰かの……《大切なモノ》」

そう言って藤谷は笑うと、ギュッと強く俺の腕を握り締める。

握り締められた俺の手には銃が握られたままで、藤谷はその銃口を自分の心臓へと向けさせた。

「奪うだけだったこの俺にも、何かを《救う》事が出来るのなら……それはきっと《今》なんだと思うんだ」

「……藤谷」

「千尋ちゃんにはやるべき事があるんでしょ?だったら……迷っている時間は無いよ」

その藤谷の言葉と共に、静かに目を閉じる。

すると俺の頭の中に、忘れていた筈の記憶が蘇った。

それはなんて事の無い、とある日常の光景。

夕暮れの公園。

子供のはしゃぐ声。

転がるボール。

そして……