「……優しいのね、千尋は」

「そんな事はないさ」

そう言ってニヤリと笑って見せると、彼女は浮かべていた笑みを消し、それからそっと俺の肩に手を触れた。

彼女の触れる右肩には、スペードのAが刻まれている。

それを雪村はシャツの上からなぞり、そして小さく笑った。

「優しい千尋。だから可哀相ね。その優しさが……貴方を永遠に苦しめるのだから。貴方が《終わる》その時まで……ずっと、ずっと、ずーっと」

そう言って雪村は悲しそうに笑う。

「構わないさ。俺の望みが叶うのなら……それ以外は、どうでもいい事だ」

その俺の答えに雪村は俺からそっと手を離し、それから静かに目を閉じる。

「どうして神様は……いつもこんなに意地悪なのかしら。きっと《あの子》も……ううん。《皆》が……そう思っていたんでしょうね」

そう言ってクスクスと笑う雪村に何も答えないまま、そっと視線を落とす。

すると左手の薬指に嵌められた指輪が鈍く光り、それと共に逃れられない《運命》とやらを……なんとなく理解した様な気がした。