「私ね……小さな弟が居るの。まだ小学生なんだけどね……とってもいい子で、凄く優しい子」

突然語り出した雪村の言葉を、何も言わないまま聞き続ける。

「両親を事故で亡くしてから……ずっと二人で生きてきた。だから今あの子はひとりぼっち。私が突然いなくなって……きっと心配してる」

語り続ける彼女に小さく頷いて返し、その言葉の続きを待った。

「だから私は絶対にここから生きて帰らなくちゃいけない。その為だったら何でもするわ。そう……何でも」

そうポツリと呟いて、雪村は強く膝を抱えた。

そんな弱々しい彼女の姿を見つめ、それから口を開く。

「……そうだな。きっと弟は待ってるだろう。お前が帰ってくるのを。だから……頑張れ」

その俺の言葉に雪村は静かに顔を上げ、茫然と俺を見つめる。

それから彼女は何か言いたそうに微かに唇を震わせ、でもそれを言葉にしないまま、悲しそうに笑った。