「ねぇ、水浴びしてもいい?」

「……はぁ?」

その突然の雪村の問いに、思わず気の抜けた声を洩らした。

「ほら、この裏に丁度よく水の溜まったトコがあるじゃない」

そう言って雪村は窪みの裏にあった小さな池を指差して見せる。

そこには大浴場の様な水溜りがあり、その水はどこまでも透き通っていて、綺麗そうに見えた。

それと共にこの世界の水を口にすると《死ぬ》という情報が頭を過り、訝しげに眉を顰めて見せる。

「この水、浴びても大丈夫なのか?」

「平気、平気!口に入れなければ全然OK。それに多少口に入ったくらいじゃ、なんともないらしいし」

そう言って雪村は立ち上がると、そのまま窪みの裏の水溜りへと向かって行く。

「覗かないでよね」

クスリと笑った彼女のその言葉に、藤谷と顔を見合わせ、わざとらしく肩を竦めて答える。

「荷物ヨロシクね~。あ、後で貴方達も浴びたら?すっごく……汚いわよ」

雪村はそう言って眉を顰めて笑うと、そのまま岩場の影へと姿を消した。

それを見届けた後、そっと自分の身体に視線を落とせば……泥だらけの身体が見える。

渇いた土と泥、それから微かに散った《赤い何か》が、俺の服や素肌を汚していた。

それと共に藤谷の顔を見れば、彼の姿も俺と同じ様で、髪はボサボサ、服はボロボロ、そしてどこもかしこも泥だらけだった。

……俺の顔もこんなになっているのか。

そんな事を考えて小さく笑うが、その笑みはすぐに消えて行った。

それから暫く沈黙が続き、互いに言葉を放たないまま、静かに時間だけが過ぎて行く。

何処からか滴り落ちる水音を聞きながら、そっと目を閉じ、それから思い切って口を開いた。