「待ってる人がいるんだね……千尋ちゃんには」

その藤谷の呟きに、そっと顔を上げる。

「きっと……千尋ちゃんが帰って来るのを待ってると思うよ」

そう言って藤谷は真っ直ぐに俺を見つめた。

「お前にはいないのか?……待っている奴は」

「……残念ながら」

そう呟き困った様に笑うと、藤谷は静かに目を閉じる。

「千尋ちゃんは……絶対に生きて帰らないと」

その藤谷の呟きに首を傾げて見せると、藤谷はそっと首を横に振った。

「……何でもない」

そう言って藤谷はクスクスと可笑しそうに笑う。

でもその笑みはどこか悲しそうで、そして何故かその笑みを《知っている》様な……そんな不思議な感覚を覚えた。