逃がした豪華懐石を思い何度めかのため息をついた時、茂木さんが独り言のように喋った。


「見てはいけない。見てもしかたない。そうわかっていても見てしまう気持ちはお前にはわからない」


怖いもの見たさ、というやつだろうか。

それならなんとなく私にだってわかる。

なんでこの人私にはわからないって断言するの。
失礼な。

と、憮然とする。

そうやって拗ねた私をその人はぼんやりと視線で捕まえた。


「どうやったって、目が追う…」


じっと見つめられ、不覚にもどきっとした。

な、なに。

なんでそんな、そんなふうに言うの。

そんな言い方したらまるで恋、してるみたいじゃない。

まるで茂木さんが私に恋を


「…六月に」


…………は?


突然とりとめなく話が飛ぶ。

大丈夫かなこの人。

なに。

今。

なんで六月?

思ったより頭ぐるぐるしてるのかもしれない。

そう思ってハンカチでも濡らしてきてあげようと立ちあがろうとしたら腕を掴まれた。


…強く、ではなかった。

強くはなかったけれど。


その触れかたはどこか甘いものがあって。

じんとして。

私は動けなくなった。

触れかたに甘みがあるなんて、初めて、知った。


「…六月に俺は、大手との取引に成功した」


…………。


ええと……。

なに?

ここにきて自慢?

なんなのこの人。

頭ばかになって自慢話はじめたのなら……


蹴るよ?
私。

本気で。