一斉にそちらの方を向く。 そこには暑そうにうちわを振っている中年男が立っていた。 「……誰ですか?」 紘哉が不思議そうに尋ねる。 芳樹の方にも顔を向けたが、肩をすくめるだけだった。 「知らないのも当然か……名前は冬沢狸翠(ふゆさわ りすい)。今は臨時でこっちに来ている」 「はぁ……」 狸翠はかしこまったように頭を下げた。 つられて紘哉も頭を下げる。