終業式の翌日、紘哉は制服を着て電車に乗っていた。 別に学校へ行くわけではない。 その証拠として、彼の手にはボストンバックが握られていた。 『――行ってらっしゃい。芳樹(よしき)さんによろしくね』 今朝そう言って紘哉を送り出した母は、どこか心配そうな顔をしていた。 無理もない。 なぜか紘哉だけで来てくれと言われたのだから。 「……」 彼は口をへの字に曲げ、お気に入りの文庫本を開いた。