あたしが優位に立てたのなんて、ほんの一瞬。


人を虐めることを生きがいにこれまで生きてきた生粋のサディストに、あたしなんかが適うはずもなかった。


「…作らせていただきます」

『はんっ!所詮お前なんてそんなもんだ』


何故か、勝ち誇ったように笑うあいつの顔が、電話越しにも関わらず、目の前に浮かぶ。


『んじゃ、よろしく』


あたしに反論する暇も与えないあいつは、そそくさと電話を切る。

プープーと、機械音の零れでるケータイをしばらく見つめ。


「(……仕方ない、やるか)」


制服のYシャツの袖を捲り、キッチンへと向かう。


そこには、一時間前と何ら変わりない中途半端なまま投げ出された青とピンクの二つのお弁当。

煮込みハンバーグだけが詰め込まれているそれは、何処か寂しげだった。




『おーい!』

「あ、隆臣。おはよ」

『うん、おはよ。……て、もう昼なんだけど!』

「知ってるよ、お迎えご苦労様」

『ほんと、律は人使い荒いからな……』


ビール色の外ハネの髪。その前髪だけを赤いポンポンが付いたゴムで、丁寧に結わえられていた。

それを指さして「かわいいね」と言えば、ニッコリ笑う隆臣。