「もしもし!」


怒りに任せて、机の上に置いてあったシャンパンレッドのそれを乱雑に掴み取る。

その怒りは電話口のアイツにも向けられて、


『あ?起きてんじゃねぇか』

「起きてるよ!起きてるに決まってんじゃん!今10時半だよ!?」


ケータイから聞こえてきたいつもより幾分か低い声は、あたしが予想したとおりの声で。

それに少し喜んでいるあたしがいるのは、コイツには内緒だ。


『んあ?その10時半に、お前は、何で、学校、来てねぇんだ』


わざわざ一言一言を切りながら話す男。


「………した」


『あ?何だって?よく聞こえねぇなあ』


こんっの…!絶対聞こえてるくせに!
あたしの反応見て楽しんでやがる!


「寝坊しましたけど!何か文句でも!?」

『…はっ』


…え?ねぇ、殴っていい?
今、この人鼻で笑いましたけど。
殴っていい?

怒りで震える手を必死に押さえ込みながら、


「…お弁当なしね。残念、今日は折角律希の好きな煮込みハンバーグと蓮根のきんぴらだったのに」

『性格悪っ』

「うん?」

『作らなかったらキス100回』

「は?」

『お前からな』