「なんのことですか。」

高鳴る鼓動を抑えながら、
できるだけ冷静に、
できるだけ抑揚無く、
そして威圧するかのように男に答えた。

決して男の言ったことが正しいとは思わない。
ただ当てずっぽうに言っているに決まってる。

寝ている人間が青い顔して急に立ち上がれば、悪夢を見たに違いない。

だから、
言葉にも出してないことを、
考えただけのことを、
夢を、
男に見られたわけじゃない。

海をまっすぐ眺めていた男は、こちらを向いてにやりと嫌味に笑った。

「その様子だとあたりか。」
元々あたりがついていたのか、確信を付いた様子で男は言った。

何をいってるんだ?そう口にしようとした時だった。

「おい洋!一人で何やってる!こんな雨の中甲板にいたんじゃ風邪引くだろーが!」

振り向いた先、勢い良く開いたドアから顔を出したのは入り口で会った船員だった。

「え…」

振り返ると男はもういなかった。
湿気った海と大粒の雨が甲板に流れていた。
ただ煙草の匂いが漂っている気がした。

夢だったのか?
さっきみた夢があまりにリアルだったから、その続きでも見ていたのだろうか。
船室に戻りながら男のことを探してみたものの、見かけることは無かった。
納得はいかないが、寝場所に戻ると窓から荒れた海をみた。

きっと緊張してるんだろう。
朝になれば町にいくんだ。
しっかりやってこいって言われたばかりじゃないか。
そんな風に考えているうちにまた深い眠りに入った。