仕事から帰ると、

妻の英里はリビングで
大きなボストンバックと
かわいらしい、
いかにも英里らしいノートを広げていた。

「おかえりなさい」

「ただいま。」

「今ね、入院の準備をしてたの。」

「…早くないか?だってまだ三週間はあるんだぞ?」

「今日の検診でね、少し早くなりそうだって言われたの。」


妻は大きなお腹をさすりながら、よっこいしょと立ち上がる。

その横顔はつい7、8ヶ月前まではしらなかった顔だ。

「大丈夫なのか?」

少し不安げに僕は尋ねた。

「私もドキドキしたの。でももう今生まれても平気だって。とっても元気なの」


妻はキッチンでやかんに火をかけた。

食器棚から2つのマグカップ、

後輩が、結婚祝いにくれたウェッジウッドのマグカップをとりだして、

僕のお気に入りのコーヒーの粉を用意していた。