空が、心なしか高くなっているように思えた。
 気がつけば、雲は以前よりずっと高い位置に浮かんでいた。
 老人の遺体は、清潔な布に包まれ、外に運びだされた。
 墓所に埋めるのだと、マナはユウから聞いていた。
 老人の墓は、あの、白い花の咲く墓の隣だった。
 前の日からすでに掘られていた穴に、ユウは静かに老人の身体を横たえた。ゆっくり静かに、土がかけられていく。
「おじいちゃん、苦しくないの?」
 虚ろなマナの声に、ユウもまた、虚ろに答える。
「マナ、これはもうおじいちゃんじゃないよ」
 感情のない呟き。
 ひどく乾いた答えに、不意にマナは意識をはっきりとユウに向けた。
 ユウは黙って土をかけていた。
 その眼差しさえも虚ろだった。
 心は、何処にもなかった。
「ユウ――」
「おじいちゃんだったものは、もうこの身体の中にいない。俺達が会いたいおじいちゃんは、もう何処にもいないんだ」
 ユウの心は、傷つき、痛み、壊れかけていた。
 いつもそうだったのだ。
 だが、それを押さえつけているから、いつまでも癒されることがない。
 今はっきりと、マナは理解した。

(いけない。ユウを傷ついたままにしておいてはいけない)

 痛烈に、そう思った。
「違うわ、ユウ。そんなことない。おじいちゃんはいるわ。この世界の何処か、死んだ人がみんな行く場所で、ちゃんとあたしたちのことを見ていてくれてる」
 機械的に作業を続けるユウの腕を、マナは捕まえて止めた。
 そうして、自分の方を向かせた。
 作業を止められても、ユウは動かなかった。
 こんなユウを見たくなかった。
 ユウを呼び戻したかった。
 老人の死とともに失われようとする、ユウの本質を。