今は、彼の存在そのものにさえ、苛立つ。
 こんな男が、今もっとも価値あるものだとは。
 エレベーターに乗り込むシイナに続き、フジオミが独り言のように呟く。
「議員達は、もうあきらめたほうがいいと思っているらしいね」
 同時に身体にかかる浮遊感。
「あなたも同じ意見なの」
 フジオミは肩を竦める。
「さあ。どうでもいいというのが僕の正直な意見だが、君が望むのなら、君の好きにすればいい」
 この事態が、彼にとって実に愉快なことのように、フジオミの口調は嬉々としていた。
 エレベーターが止まると同時に、ドアが開く。
 黙って廊下を歩きだすシイナに、背後からのフジオミの声。
「知っているかい、シイナ」
 不愉快さを隠さず、シイナは応える。
「何なの?」
「その昔、この地には美しい鳥がいたそうだよ。だが、人間が自分達の利益を満たす間にその鳥は繁殖の場を奪われ、乱獲され、とうとう滅んでしまった。
 自分達の愚かさに気づいた人間があらゆる努力をしても、結局それらを救うことはできなかった。滑稽なのはそのあとさ。別の大陸の全く同じ鳥を連れてきた。スペアがあるからそれで代用しようとした」
 歩みを止めて、シイナは振り返った。
 フジオミはかすかに微笑っていた。