「――その時が、来たの?」

 老人に視線を向けずに、小さくささやきが洩れた。
 立ったままのユウを見、老人は椅子に座るよう促した。
「ああ、そろそろ、いかねばならんようだ」
「おじいちゃん――」
「わしがいなくなっても大丈夫かい…?」
 血の気のない渇いた指が、椅子に座ったユウのそれに重なる。
ユウは取り乱したりせず、落ち着いていた。
「――大丈夫だよ。わかってたから。何も心配ない」
「そうか……」
 老人は悼ましげにユウを見つめた。まるで苦痛を堪えるかのように。
「おじいちゃん?」
「――おまえは、いつも哀しみを内に閉じこめてしまう。私達は、おまえに、心をそのまま伝えるということを、教え忘れてしまったのかもしれないなあ。
 でも、ここにはマナはいない。私達だけだ。心をそのまま表してもいいんだよ」
 ユウが困惑したように老人を見る。
「どうしてそんなことを?」

「おまえが、とても可哀相に見えるからだよ。
いつも、決して手に入らないものを求めすぎているように、とても可哀相に見える」

 老人の言葉に、ユウは一瞬目を瞠り、それから痛みをこらえるように、一度ぎゅっとかたく目を閉じた。