「おじいちゃん?」
「マナ、おまえさんは優しい子だが、知らなすぎる。この世界に生きているものは全て慈しむべきもの、慈しまれるべきものなのだ。
生命とは、そこに貴賎を見いだすものではない。みな平等に尊いものなのだ。例えそれが、自然の理に反するものであっても」
マナはまた、混乱した。
そんなことを、シイナは教えなかった。
クローンは、知能のレベルも高くなく、人間としても扱われていない。
自分達とは違うのだと、以前自分に言ったのだ。
そのことを老人に語ると、老人は小さく笑った。
「では、おまえさんは、自分とは違うユウや私を、生きる値打ちのないものだと思うのかい?」
「そんな!! 一度も考えたことないわ、そんなこと。あたしは、ユウもおじいちゃんも大好きだもの」
「では、その気持ちを他のものにも向けておあげ。誰しも、望んでそうと生まれることはできないのだよ。そして、それは誰の所為でもない。
望んだものになれなかったことを苦しむものは多い。それを蔑んではいけない。その傷を、理解しようと努めなければならないのだよ」
「ええ、そうね。ごめんなさい、おじいちゃん。あたし、いけないことを言ったわ。おじいちゃんやユウを蔑んだりするつもりはなかったのよ」
「わかっているよ、マナ。おまえさんはずっと、そう教えられてきたのだから無理もないね。ただ、これから知ってほしいのだよ。この世界に生きる全てのものの美しさと、かけがえのなさを。
この世界は、全てが愛おしい存在で満ちている。今ここにこうして立って呼吸をしていること、それだけで、私は本当に生きていることがすばらしいと思うのだよ」
「知りたいわ、あたしも」
憧憬の眼差しで、マナは老人を仰いだ。
「どうして、おじいちゃんの考えていることは、こんなにあたしと違うのかしら。あたしは、今まで呼吸することの意味を感じたことはなかった。それがどんなに大切なことなのかも。教えられなきゃ、わからないものなの?」
「そうだね。自分で気づける人もいるが、マナ、私も教えてもらったんだよ。母にね」
「母――〈お母さん〉ね!! 教えて、おじいちゃん。お母さんて、どんな人?」
マナは老人の衣服の袖を握り、話をせがんだ。


