ETERNAL CHILDREN ~永遠の子供達~


 この神という概念を、彼女は理解できなかった。
 マナの知識の中に、神というものはない。宇宙、地球、生命の誕生、それら全てはディスクの中で見聞きしただけのことで完結していたからだ。
 シイナは、マナに倫理や哲学という抽象的な精神世界に関することを教えなかった。非科学的なものを全て排除したのだ。
 そんな彼女の表情から、老人は簡単に付け加えてやった。
「要するにだ、我々普通の人間とは違い、できないことを全てできるもののことだ」
「じゃあ、ユウだわ! ユウが神なんだわ、ユウはあたしたちと全然違う。なんでもできるし、髪も目も、色が違うわ」
 老人は苦笑した。
「ユウは人間だよ。あの髪と目の色は――そう、生まれたときからの病気なのだ。血が近すぎるために起こることがある」
「血が近いって、どういうこと?」
「マナと同じ血を持つもの。例えば、マナの母親、父親、マナの母親から産まれたマナの兄妹、マナの両親の兄妹、その子供達。これらはみんなマナと同じ血を持つ。近親者、または血族ともいう。血族同士婚姻を結ぶことで起きやすい遺伝病、これは身体のメラニンという色素が欠乏して、黒い組織をつくれなくなるというものだ。だから髪と目、肌の色が薄く赤くなってしまう」
「じゃあ、ユウのあの力は?」
「それは私にもわからん。あれもまた濃すぎる血が要因なのか 」
「ドームには、ユウみたいな人はいなかったわ。血が濃すぎるというのは、いけないことなの?」
「血族結婚は古い時代からの禁忌とされてきた。不妊や障害、遺伝病など、さまざまな弊害が現われるからだ」
「ああ。わかるわ。ドームにはクローンがたくさんいるけど、クローンはみんな子供を作れないもの。それに、クローンなんて与えられたことしかできないの」
 マナの無邪気な口調に密かな侮蔑が含まれていることを悟り、老人はゆっくりと首を振った。
「マナ、そんなふうに言ってはいけない」
 厳しい口調に、マナはにわかに怯えた。