その日の午後、珍しく部屋にいなかった老人を探して外に出たマナは、廃墟の北の少し離れたところに、不思議なものを見つけた。
 草を隔てて剥出しになった土が広がっている。
 均等な間隔に、おびただしい数で土が盛り上がっている。そこに何かを隠しているように。
 その小さな山の上には、がっしりした木が立ててある。
 その木の全てを、マナはすぐに数えることはできなかった。あまりにも数が多すぎて。
 よく見ると、立てられた木には新しいものもあれば、朽ちかけてぼろぼろのものもあった。
 老人は手前の方の、まだ新しい木の前に立っていた。
 そこには、草に混じって、可愛らしい小さな白い花が疎らに咲いていた。
 マナは静かに老人に近づいた。
 だが、声はかけなかった。
 老人は静かに瞳を伏せて両手をあわせ、そのまましばらく動かなかった。
「おじいちゃん。ここは何?」
 だいぶ待って、痺れを切らしたマナが問う。
 老人がマナに視線を向けた。
「墓だよ」
 静かな声が、淋しげに響いた。
「はか――?」
「そう。みな、私をおいて死んでしまった。彼等は、ここに眠っている」
「死んだ人を、土の中に埋めるの?」
 非難めいた声音に、老人は穏やかに微笑って振り返った。
「そうだよ。それこそが連鎖というものなんだよ、マナ。我々はあらゆるものを殺して食している。だから、死ぬときが来たら、私達は今まで奪ってきたものを還さなくてはならないんだ」
「還すって、どうするの? 死んでからどうやって還せるの?」
「私達が、唯一所有できるもの、肉体を、土に還すんだよ。死ねば身体は腐敗する。それがよい土壌を育て、そこに新しい生命の誕生を齎らすんだ。
 ここに眠る彼等は、土に還ったのだ。土と同化して新たな命を産み出し、自らもやがて新たな命となる。それこそが自然の理だ。全てが等しく循環することが。だが、一時、人間はそれを放棄したんだよ」
「どうやって?」
「体を、焼いたのさ。焼いて、石の囲いの中に閉じこめた。思えばその頃から、人間はおかしくなりはじめたのかも知れん」
 憂えた瞳で、老人は遠くを見つめていた。