「正直、僕には全てがどうでもいいことなんです。シイナのように何かに情熱をそそぐ対象もないですしね。僕はただ――」
「ただ、何だね」
「したいことのある人間がいるなら、そちらを優先させてやったほうがいいと思っているだけです。そんな風に何かに夢中になれるなんて、尊敬に値しますからね」
「だが、シイナの情熱は危険だ。すでに一度、殺人まで犯しかけている。生命の尊さを、彼女は真に理解していない。生命の重さはみんな同じだ。例え、それがどんな生命でも」
 フジオミはカタオカの言葉に、純粋に驚いた。
 彼の口から、生命の尊厳を聞こうとは思ってもいなかったのだ。
「平気でクローニングを繰り返してきたあなたとは思えない言葉だ」
 フジオミの揶揄に、カタオカは表情を強ばらせた。
 誰にでも触れられたくない部分はある。痛みを伴う後悔であるなら、それは尚更だ。
 カタオカは強ばった口調で告げる。
「私が常に平静であったと、信じたいのならそうすればいい。だが、問題は私ではない。
 シイナだ。彼女を、止めなければ――」
「止められますか、あなたに」
「いいや。できないだろう。シイナは二度と、私に心を開くまい。私は彼女の信頼を裏切った。君では、止められないかね」
「できません。信頼を裏切った点では、僕も共犯でしょう。僕等は彼女に義務を強いた。それを続ける以上、それ以外で彼女を拘束することはできませんね」