シイナは一礼してカタオカに背を向けた。
「シイナ、こだわりを捨てたまえ。もはや、誰もがわかっている」
 その言葉に、シイナは立ち止まる。
 だが、振り返りはしない。

「我々の滅びは止められない。もう、どうあがいても無理なのだ――」

 苛立ちに似た感情を、シイナは微かに顔に表した。
 ゆっくりと振り返り、カタオカに視線を据える。

「あなた達は、あきらめたまま残る時を過ごせばいい。
 何も残さず、意味もなく、死ぬまで生きればいい。
 私は違う。
 私はあきらめない。黙って、何も残さず生きたりしない。
 それが例え気休めにしか過ぎなくても、私は自分の存在意義を見つけだします。死ぬ最期の瞬間まで、あがき続ける――」

 強い意志が、そこにはあった。
 けれど、それは、カタオカにとって最も痛ましく思えるものだということを、彼女には理解できなかった。
「――シイナ、私は、君が憐れでならない」
 だからこそ、こんな言葉にも、傷つきはしない。
「憐れみなら、いくらでもかけてください。
 今更遅かったなどと責めたりはしません。
 でもそれは、私にとってもう何の意味もない」
 それ以上の言葉はなかった。
 シイナは再び振り返ることはなかった。
 そしてそのまま部屋を出た。