シイナは長い廊下を歩き、カタオカの部屋へと向かっていた。
 オートドアには自由な入室を許可することを示す緑のライトが点いていた。
 そのまま部屋の前に立つと、すみやかにドアは左右へ開いた。
「お呼びと聞きましたが」
「ああ。入りたまえ」
 カタオカは議会の長でもある。
 その理由は彼が議員の中でも最年長者であるとともに、ていのいい周囲の責任転嫁でもあると、シイナは思っていた。
 議員と呼ばれる者は、そのほとんどが四、五十代である。
 いま現在の人間の平均寿命は六十歳前後だ。
 後は死を迎えるだけの人々は、全てにおいて希薄で、もはや己れの意志すら持っていないようにも思える。
 実際、彼等にはどうでもいいことなのだ、この世界のことなど。
 もはや己れの死にさえ関心を持たない彼等は、当然のようにマナのこともユウのこともフジオミのことも、未来のことでさえ考えることを放棄している。
「シイナ、未だにマナはユウとともに外の世界で生存しているというのは本当なのかね?」
 困惑すら見せない、静かで控えめな口調。
 シイナはうんざりしていた。
「本当です。記録を見つけました。
 このドームへの移住し始めた頃にここを離れて外の世界へ出ていった人間がいたそうです。
 ここより北の廃墟群にかつての生活跡が見られました。かなり前のものなので、なんらかの理由により、そこからさらに北へ移住したと思われます。
 おそらく、ユウはその子孫である人間達に保護されたのでしょう」
「どうする気かね?」
「ユウを追います。マナを取り戻す、それだけです」
 感情の起伏すら見せないシイナの口調に、カタオカは眉根を寄せた。