「ユウを見つけたのは、私と死んだ妻だったんだよ。
私達は、ここに住む前は、もっともっと南の方に住んでいたんだ。
そう、もっとドームに近かった。
その日は仲間も含めて山菜を採っておこうと遠出をしたんだ。歩き疲れて川の近くで休もうと、私達は水音に従って川へと出た。
しばらく休んでいると、妻が突然川へと入っていってな。驚いてあとを追っていったら、岩の影に引っ掛かってぐったりしていたユウを見つけたんだよ。
私達はすぐにユウを住処へ運び込んだ。
幸い、弾は貫通していたが、医療設備などなきに等しい。応急処置と輸血だけで、あとはユウ自身の生命力にかけるしかなかった。
幾日も高熱が続き、傷は塞がらずに膿を持ち、私達は何度も、あの子が死ぬのではないかと思った。ようやく熱がひいても、一月以上、ユウは言葉を話すことさえできなかった」
布ごしに触れた腕から、老人のやるせない痛みが伝わってくる。
強い感情や相手との接触は、マナに自分のものではない感覚を伝えてくる。
ドームで暮らしていたときよりも、それは、今、確実に強くなっていた。
(でも、相手の気持ちがわかるのはいいことだわ。つらい時は、誰でも理解してほしいものだって、おじいちゃんが言ってたんだもの)
マナは老人の皺だらけの手をとり、優しく握った。
老人は目を細めてマナを見返した。
「ユウは我々よりもはるかに高い知能を持っている。
そのせいかどうかはわからんが、あの子は三歳であったが、誰が、なぜ、自分を殺そうとしたのかすでに脳裏に焼き付けていたのだ。
一月を過ぎて、あの子が初めて口にした言葉を、私は今でも覚えている。
『このままにはしない――』
私は、そこにいるのが本当に三歳の子供なのかと思ったよ」
「じゃあ、やっぱりユウ以外、犯人が誰かはわからないのね」
「問題は、誰がユウを殺そうとしたかではない。
どうでもいい相手なら、ユウはきっとああまで思い詰めはしなかっただろう。
信じていた者の裏切り。それが、ユウの心に憎しみを植えつけたのだ。
だからこそ、私は、あの子が憐れでならんのだよ」
老人は首を横に振り、忌まわしい回想を追い払うかのような仕草をした。


