夕暮れが近づき、部屋の中が徐々に薄暗くなる。
 しかし、マナは動かなかった。
 控えめなノックの音にも、扉を開けて入ってきた老人にも、気づいてはいたが動けなかった。
「マナ。今度は一体どうしたんだね?」
 自室の床に座り込んだまま、声をかけられてようやく振り返ったマナは、泣きはらして真っ赤になった目で老人を見上げた。

「おじいちゃ…」

 声を出すと同時に、涙があふれる。
 マナは老人にしがみついて声をあげて泣いた。
「ユウに聞いても何も答えんし。おまえさんはおまえさんで部屋を出てこんし。
 最近は喧嘩することもないから安心していたのに、よくもまあ、おまえさんたちは」
「だって、ユウが、ユウが…」
「ユウが何か、おまえさんに言ったのかい?」
 マナの頭を優しく撫で、老人は問う。
「ユウが、博士に殺されそうになったって言ったの。でも、博士は優しい女なのよ。あたしを育ててくれたの。本当に、素敵な女なのよ。おじいちゃん、本当なの? 博士が、ユウを殺そうとしたの?」
 老人は一気にまくし立てたマナの言葉を理解すると、一瞬眉根をよせ、それから、首を振った。
「そのことなら、私には、わからんのだよ。実際にそれを見たわけではないからな」
 老人はマナをベッドに座るよう促し、自分も彼女の隣に腰を下ろした。