山は深緑に覆われ、本当にとても美しかった。
見下ろす景色も茂る緑に覆われ、青い空の端を切り取る、見渡すかぎりの緑の絨毯のようだ。
その中にも、若草色がまばらに点在し、太陽の加減であざやかに瑞々しい色合いを変えた。
風に誘われるように、葉ずれの音がする。
音も色も、一体となった一つの美だった。
「こんなに綺麗なのに、どうしてドームのみんなは外に出て見ようとしないのかしら」
「昔は、こんなに綺麗じゃなかったからさ」
「どういうこと?」
「廃墟を見ろよ」
言われて、マナは緑の続く中、一画だけ灰色に埋めつくされている廃墟群を見下ろす。
四角柱のでこぼこで、アンバランスな建造物は、確かにお世辞でも美しいとは言えなかった。
「昔は、あんなのが本当にたくさんあって、緑なんかほんの少ししかなかったんだってさ。汚い空気が充満してて、水も土も汚れ放題、ゴミで溢れかえってたんだって」
「ゴミ? ゴミって何?」
「必要のないものさ。例えば野菜の皮や残り物のご飯や、そんなものかな」
「え? だって、それは必要なくなんかないわ。だって、畑の肥料になるでしょう?」
「廃墟に住んでた人間は、畑を作らない。
他にも、新しい便利な道具が欲しくなると、まだ使えるものでもどんどん捨てていくんだって。
捨てることが、捨てるほどたくさん物があるってことが、幸せだと思われてた時代があったって。
だから、そこでは捨てることは悪いことじゃなかったんだ。
そうして、みんなで捨てて捨ててゴミだけがどんどん増えていった。
ゴミを捨てるために木を切ったり、山を削ったり、川や海に捨てたりしたって聞いたよ。そんなの、誰も見たいって思わないだろ?」
「捨てるくらいなら最初から作らなければいいのに。
でも、ますます変よ。だって、今はこんなに綺麗じゃない」
「ずっとドームの中にいたから、外が綺麗になってたってわかんなかったんじゃないかな。それに、時間が経てばこの風景だって見なれないものになってくる。見なれないものを急に目にしても、いいとは思えない。だから、誰も見なくなったのかも」
「あたしが初めておじいちゃんを見て驚いたみたいに?」
「ああ。でも、マナはもうおじいちゃんを恐いとか思ったりしないだろ?」
「それどころか大好きになったわ」
「そういう気持ちを、きっとみんな持てなかったんだ。だから誰も外に出てこようとしなかったのさ」
哀しそうに、マナは頷いた。
「そうね。こんな綺麗な景色なのに。それを綺麗と感じられないのなら、それはとても悲しいことだわ」
空も雲も太陽も風も木も草も花も、マナにとっては全てが美しかった。


