マナの料理を習うという初めての試みは、驚きの連続ばかりだった。
 何しろ、出されたものを食べるだけだったのだから、料理に関する基本的なことさえも知らないのだ。
 自分が食べていたものが、本当はどんな形をしていたのか、それを知るだけでも、マナには新鮮だった。
 覚えることは、もちろんそれだけではない。
 材料を切ったり皮を剥くための器具の扱いや、調理のための器具の名称、たくさんありすぎる調味料の使い方、それらの準備や後始末、また食事のためのテーブルセッティングや食器の使い分けなど、きりがないほど学ぶことはたくさんあった。
 だが、今度は楽しく料理をすることができた。
 朝昼晩と、料理を作るときだけでなく、空いている時間全てを使って、ユウが最初から丁寧に教えてくれたからだ。
 マナの失敗を怒ることなく、時間をかけて根気強く教え続けた。
 そうして、一週間もすると、食事の支度のほとんどは、マナにもできるようになっていた。
 もちろんユウも一緒に作るが、下ごしらえ程度だ。
 仕上げはどんなに時間がかかってもマナにやらせてくれる。
 マナは朝起きて身支度を整えると、すぐに朝食の準備をする。
 テーブルを拭き、食器を並べる。
 熱いスープとご飯をよそい、昔ながらの箸で、大皿に持ったおかずを取り分け、つつきあう。
 老人とユウと三人で、一日の予定を話し合いながらの食事。

 他愛のない会話で、笑い合いながらの食事。

 それは、マナの今まで知らなかったもの。
 学びはしたが、実現することはないと思っていたもの、だった。