階段を上がってくる気配をドア越しに感じて、マナは大きく息を吸った。
そして、大きく吐くと、思い切ってドアを開けた。
「ユウ」
振り返ったユウは、少し驚いた顔をしていた。
まるで、マナが自分に話しかけるのが信じられないように。
だが、すぐにそんな表情は消える。
マナのちょうど斜め向かいの自室に入ろうとノブに伸ばしていた手が離れる。
「何? 何か用があるのか?」
「ええと……」
かけるべき言葉を用意していなかったことに、マナは気づいた。
声をかければ、どうにかなると思っていたのかもしれない。
「マナ?」
じっとユウを見ていたが、その表情からは何の感情も読み取れない。
どんな言葉をかけるか考えるより先に、マナはユウの手を両手で捕まえた。
ドームでは感じたことはなかったが、ここへ来てから、マナには不思議な力が現われるようになっていた。
ユウや老人に触れているとその時の感情がわかるのだ。
もちろん、考えていること全てがわかるのではない。
ただ、言葉として感じられない感情を、波のように、温度のように、感じ取ることができるのだ。
そして、もっと不思議なことに、ユウに対して、この力はもっとも強く働いた。