老人は、マナの隣に腰をおろし、そっと手を握った。安心させるように。
「マナ、我々人間は、そういう生き物なんだよ。生きるために、別の命を奪って、それを食べる。人間だけでもない。生き物というのは、そういうふうにしか生きていけないようにできているんだよ」
「そんなの哀しすぎるわ」
「ふむ。では、こう思うといい。おまえさんに食べられた動物は、おまえさんの一部になったのだと」
「一部?」
「そうだ。食べられた動物は、おまえさんの血に融け、新たな肉となっておまえさんとともに生き続ける。だから嘆く必要はない。おまえさんは、自分の命を大切に生きるんだ。それが動物にとっても救われる」
 マナは不思議そうに老人を見つめた。
「それは、本当のこと?」
「おまえさんが信じれば、それはいつでも真実なんだよ」
 穏やかに諭されて、マナは何となく納得したくなった。
 老人の言葉は、何だかあたたかく心に伝わるのだ。
 その証拠に、さっきまであんなに哀しかったのに、今は全然平気だ。
 手のぬくもりと一緒に、老人の感情が伝わったからだろうか。
 だから、マナはそれを信じることにした。

「ユウは、あたしのこと嫌いなのかしら?」

 不意に呟いたマナに、老人は驚いて問う。
「なぜそう思うんだい?」
「だって、いつも怒ってばかりだわ。初めはとっても優しかったのに。
 怒られたって、あたしにはどうしようもないのに。あたしにとってはそれが当たり前だったんだもの。急に違うって言われても、わからないじゃない。でも、ユウはそんなことちっとも考えてくれてないんだわ」
「マナは大事に育てられてきたのだなあ」
 老人の言葉に、マナは微笑んだ。
「ええ。みんな優しかったわ。博士も、フジオミも。周りにいたクローン達もみんな。ユウみたいにうるさく言わなかったし、あたしに怒ったりしなかったわ」
 そこまで言うと、不意にマナの表情が哀しげに歪んだ。
「――おじいちゃん、あたしドームに帰りたいわ。ユウに言ってみてくれないかしら。
 ユウだって、きっともうあたしの顔なんか見ていたくないはずよ。
 嫌われてるんだもの。あたしがいなくなった方が喜ぶかもしれないわ」
「マナ。ユウがおまえさんを嫌いになるなんてことはないよ。
 ただ、ユウにもわからないんだよ。おまえさんにどう接すればいいのかね。
 ユウは同じ年頃の子供と話したことがない。周りはみんな大人ばかりだったからね」
「ユウも、同じ?」
「ああ。きっとユウも今頃後悔しているよ。なんとか仲直りしておくれ。おまえさんも、ユウと喧嘩したままドームに帰るのはいやだろう?」
「ええ。でも、ユウは許してくれるかしら」
「大丈夫。おまえさんを許さないなんてことは、絶対にありえないよ。ユウはマナを大好きだからな」
「そうならいいんだけど」