「マナ、夕食を食べないんだって? どうしたんだい?」
 日が傾いてきたころ、部屋にこもったきりのマナの様子を、老人が見にきた。
 マナはベッドの中で、シーツを頭からかぶってふて寝していた。
「だって、気持ち悪いんだもの」
「気持ち悪い?」
 がばっ、とシーツを取り払って、マナは起き上がり、老人と向き合った。
「知らなかったのよ。ここで食べているものが、動物の体だなんて。動物を解剖するのを、ディスクで見たことがあるわ。あんな小さくて可愛いものの体を食べるなんて、信じられない」
 老人は困ったように笑った。
「そうだなあ。何も殺さずに、奪い過ぎることなく生きていけるなら、マナの言うとおり幸せだろうけれど、生きるために、必ず人は何かを犠牲にしているんだよ」
「嘘。だって、ドームでは動物を食べたりしないわ」
「では、マナが食べるものは一体何から作り出しているんだい?」
 問い返されて、マナは返答につまる。
「――わからない。知らないわ。だって、いつも用意されてあるから、それを食べているだけよ。ああいうのが初めからあるんじゃないの?」
 老人は声を出さずに笑った。
「マナが食べているのは、加工品だよ。もともとあったものをそうとわからないようにつくりかえているだけなんだよ」
「じゃあ、あたしが今まで食べていたものの中には、動物の体もあったの?」
「ドームでの食事を見たことがないから何とも言えんが、多分な。きっと豚か、牛かなんかだろうな」
 じわりと、マナの瞳が滲んだ。
「あたし、死んだ動物の体を食べて生きてきたのね」