「シイナ。連絡は受けている。詳しい状況を説明してくれたまえ」

 シイナがその部屋に入るなり、重みのある穏やかな声がかかる。
「説明なら、後でいやというほどご報告します。それよりもカタオカ、すぐに捜索隊を編成してください。一刻も早く、マナを取り戻さなければ」
 カタオカは、椅子に腰掛けたままシイナを見つめていた。
 五十代の貫禄を備えたこの男は、シイナの焦燥とは裏腹に、落ち着いていた。
「待ちたまえ。そんな大がかりなことを私一人で決めるわけにはいかない。議会を召集しよう。議員にすぐ集まるように言う。二日待ってくれ」
「二日っ!? あなたにはことの重要さがわかっていないのですか!? さらわれたのは、マナなんですよ!? 彼女は、我々人間に残された唯一の女性なんです。彼女を失えば、私達は滅びるだけだというのに、なぜそう悠長に構えているんです」
「無駄に焦ってもよい結果は生まない。マナはさらわれたのだろう? ならば生命の危険は、今のところはないのではないかね。マナの命が目的なら、彼が侵入した時点で実行されているだろう」
「だからといって、この先もマナに危害を加えることがないと、言い切れますか。
 我々人間は外界の苛酷な環境に耐えられるほど強くはない。マナもそうです。急激な環境の変化に、マナが耐えられるのかもわかりません。一刻も早く救出しないと」
「だが、捜索を開始しようにも、行き先に、見当はあるのかね。外は広い。捜索は日数もかかるだろう」
「指揮なら私がとります」
「いや、それはいかん。君にはドーム内を統括する役目がある。ここには、君は必要不可欠なのだ」
「――」
 悔しいことに、それは事実だった。
 研究区域の統率だけではなく、シイナは事実上このドームを統率していた。
 もともとの統率はカタオカが行なっていたのだが、数年前から彼はこのドームの全権を彼女に委ねていたのだ。
「では、今すぐに議会の召集を。
 急げば明日の朝には議会を開けるはずです。
 あなたは我々の議長です。数少なくとも権限はおありのはずです。
 今すぐ行使してください」
 言い捨てると、もう用はないといわんばかりの態度で、シイナは部屋を出、足早に進んだ。
 苛立たしさが足取りをも急がせる。