もっと身近に、見て、感じてみたい。

 思ってしまえば、後は簡単だった。
 やり方もわからない鍵も、試行錯誤で解いて窓を開ける。
 一斉に風がマナの長い髪を後ろへと靡かせた。

「きゃ――」

 その勢いに、思わず瞳を閉じる。
 眼に見えない何かがぶつかってくるような、そんな突然の感覚だった。
 強いだけの感覚は、やがて身を包むように穏やかで優しいものへと変わる。
 マナは自分の髪が緩やかに背中に触れては離れるのを確認して、瞳を開けた。
 剥出しの手が、風にさらされている。
 開いた指の隙間を、風が抜けていく。
 ただそれだけのことが、マナにとっては風に触れているという重大な現実だった。
 風を感じていることも、全てが夢のようでいて、けれども確かな現実なのだ。
 こうしてここに立っていると、昨日までの自分のいたあの銀色のドームがいかにもつくりものめいた絵空事のようにも思える。
 それほど、マナのこの体験は深い衝撃を彼女に与えたのだ。

「なんて綺麗なの。こんな世界が、あったなんて……」

 チチチと、木々のざわめきの間から聞こえる音。
 マナはどこかで聞いたことがあると思った。どこでだっただろう。
 ばさばさと、梢の間から飛び出したものを見て、マナは納得した。
「〈鳥〉ね! 鳥のさえずりだわ!!」