外が明るくなっていくのに気づくと、ユウはマナを起こさないように静かに抱き上げ、ベッドへと横たえた。
そうして、そっと部屋を出た。
階段を下り、すぐの部屋をノックする。
返事はないが、ユウはドアを開けた。中に入ると開いたままのカーテンから差し込む光で、すでに部屋は明るかった。
老人はベッドにはいなかった。
窓に斜めに背を向けた揺り椅子に腰を下ろしていた。
ユウは黙ってそちらの方へと向かった。
目を閉じていても老人が起きていることに、気づいていた。
明けてゆく薄紫の中で、揺り椅子の軋む音だけが静かに響く。
明るく照らされた老人の顔に、まだそう濃くならない影が優しく落ちた。
「おじいちゃん――」
「気がすんだかね」
ゆっくりと老人は目を開け、ユウに手を差し伸べた。
ユウは黙ってその手をとる。
「ごめん、おじいちゃん。俺、悪いことをしたよ」
「誰に対して、悪いと思っているんだね?」
「――」
「ユウ、あの娘はおまえの望むものにはなれんよ。それを、忘れんようにな」
「わかってる――」
ユウは静かにその場に座り込んだ。
失われたものを求めるのがどんなに愚かなことか、ユウはすでに知っていた。
「でも、おじいちゃん。マナは、俺の手を優しく握ってくれたよ。朝になるまで、そうしていてくれた」
「――」
「おじいちゃんと同じに、あたたかな、手をしてた……」
ずっと、欲しいものがあったのだ。
ずっとずっと、それだけが欲しくて。
「ちゃんとわかってるよ。子供じゃないもの。俺だってもう、わかってるんだ」
瞳を閉じて、ユウはそれきり動かなかった。老人は優しく、ユウの髪を撫でていた。


