彼等は高台の上に立っていた。
言葉を交わさなかった。
ただじっと互いの顔を見ていた。
幾度も夢に現れ、離れている時間をもどかしく思った日々はすぎたのだ。
「もう二度と、離れないで」
「ああ」
抱き合う彼等を、風が優しく過ぎていく。
二人は身体を離し、風の方へと視線を向けた。
高台から望む景色はもう秋の装いを始めようとしている。
やがて色づいた木々の葉が、また新たな季節を迎えるのだ。
マナはじっと、その風景を見つめていた。
「きっとこの地上から人間が全て消えても、ここは変わらずに美しいでしょうね」
言葉は、流れるように風が運んだ。
「風は変わらず吹いて、水は変わらずに流れ続けるの。ただ、そういうことなのよ」
循環する生命を、再生する魂を、マナは愛していた。
全てが失われたとしても、それは本当の意味での喪失ではないのだ。
ましてや、消滅でもない。
全ては循環する。
かつて肉体から離れた生命もまた、気の遠くなるような時の中を何度でも再生し、循環した。
その生命あるものの中で、意味のないものは何もなかった。
意味がなければ、存在するはずすらないのだ。
マナは今、それを知り、理解した。
隣には、ユウがいる。
愛しい存在が。
そして今、彼女は何より、自分自身であることを愛していた。
今この瞬間の自分であることを。
ユウを愛し、ユウの隣にある、このかけがえのない生命と身体を、感謝した。
「行こう、マナ」
ユウがマナに手を差し伸べる。
マナは穏やかに微笑んで、その手をとった。
「行きましょう、ユウ。
連れていって、何処《どこ》までも」