「僕もやっと気づいたんだ。
今この瞬間に存在している君を愛してる。
例え何も残らなくても、君以外、僕はいらない。愛してくれと強要したりしない。君がいやなら、もう抱かない。僕が今まで君を苦しめてきた分の償いをするから。
ただ、僕が君を愛し続けることだけは許してほしい。君を愛しているということを、認めてほしい。それだけで、いいから」
シイナの瞳から、新たな涙がこぼれた。
「――私には誰も、何も愛せない。あなたが愛する価値すらないわ……」
フジオミは穏やかに微笑った。
「価値も何も要らない。そんなものを考える間もないくらいの時から、ずっと君が好きだったから」
フジオミはもう一度シイナを優しく抱き寄せた。
シイナは抵抗しなかった。
する気力さえなかった。
穏やかな時間が、二人を流れる。
「こんな簡単なことにさえ、ようやく気づいたんだ。僕はずっと、こんな気持ちで、君を抱きしめたかった――」
「――あなたは、馬鹿だわ…」
シイナは瞳を閉じた。
こぼれ落ちた涙が乾くまで、二人は動かなかった。