「信じられない。あなたもマナも、ユウに何かされたの!? 義務を放棄するなんて、なんて恐ろしいことを――」
「どうして、そうまで未来にこだわるんだ。君は君だ。今現在のこの瞬間にしか、存在しない。老いて死ねば何も残らない。だからこそ、この瞬間瞬間が大事なんだ。君が君のために生きて何が悪い」
「――何を言ってるの、あなたは」
「わからないふりをするのはよせ。君だってとっくにわかっていたんだ。ただ、気づかないふりをしていただけだ。自分を守るためだけに」
 静かな、けれど厳しい言葉に、シイナは反論できない。
 青ざめたまま、じっと彼を見つめている。
 何を言われたのかさえ、理解できていないかのように。
 フジオミはそんなシイナの頬にそっと触れた。
「君を愛してる」
 竦んだ身体が、自分の言葉を受けとめたことをフジオミは知った。
「――やめて」
「君を愛してる。ずっと愛してきた。君が望むのなら、マナを選んでもいいと思うほど、ずっと愛してきたんだ」
「やめて、聞きたくないっ!!」
 耳を塞ぐ彼女の腕を捕らえて引き寄せる。
「聞くんだ。この世界には人間の力ではどうしようもないことも確かに存在する。滅びは平等に訪れる。誰の上にも。
 人類が長い歴史の中で何をしてきたか考えてみるがいい。我々は過去にどれほどの種を絶滅に追いやり、自然を破壊し、大地を穢してきたか。
 そして今、大きな目に見えない力が人類を滅ぼす。
 これこそが運命だ。いくら足掻いても変えられない。人類が誕生したときから、決められていたことだ。
 僕らは滅びる運命だった」

「そんなの嘘よ!」

 フジオミの言葉に、シイナは今、全身全霊で抗っていた。