「――あたしは博士が好きだった。フジオミも好きだった。何も知らない頃のここの生活も確かに好きだった。
でも、ユウの方がもっと好きなの。
行かせて、博士。あなたを、憎んでしまわないうちに」
揺るぎない意志。
何があろうとも変わらない、毅然とした態度のマナを前に、シイナは驚愕した。
まるで初めて会った、見ず知らずの少女を見ているようだった。
「あなたは、本当に私のマナなの……」
「ええ、博士。あたしはマナ。でも、あなたのじゃないわ。あたしはあたしだけのもの。
たくさんの哀しみを知ったわ。それ以上の苦しみも。博士が知らないことでさえ。
そして、人を愛することも知ったの。何の打算もない、ただあるがままの愛を知ったのよ。だからあたしは行くの」
マナは微笑った。
決してシイナが理解できない、穏やかな笑みで。
シイナは決して認めない。
どうして認めることができようか。
マナだけが、彼女の唯一の希望であったのだから。
わかりすぎるからこそ、マナは黙ってシイナを待っていた。


