「――」
マナは静かに立っていた。
対して、シイナは肩を震わせ、引き金を引いた自分に取り乱し、動揺を隠せずに立っている。
照準を、マナに合わせたまま。
「行かせないわ。あなたが必要なの。他の誰よりも、あなただけが必要なのよ。
なぜわからないの、マナ? あなただけが、私達を救えるの。
あなたに、私達人類の全てがかかっているのよ」
マナは首を振る。
「博士。わかって。あたしユウが好きなの。彼を愛してるの。彼じゃないと、駄目なの」
「馬鹿なこと言わないで!!」
ヒステリックな声が廊下に響いた。
「ユウはあなたの息子よ。生殖能力を持たないのよ。彼を選んでも子供は産めないわ。
あなただけが、あなたとフジオミだけが子供をつくれるの。ユウを選べば、人類は滅びてしまうのよ!!」
その時初めて、マナはシイナを憐れんだ。
彼女にはきっとわからない。
彼女もまた、この歪んだ社会の犠牲者なのだ。
誰も、シイナに教えなかった。
知らないまま、彼女はここまで来た。
今何を言っても、彼女は理解してはくれまい。
そしてそれでも、マナはシイナを愛していた。
どうしてだろう。
愛するということは、こんなにもたやすく心に溢れるものなのに。
なぜ、ここにいる誰も、彼女にそれを教えられなかったのだろう。


