さらに次の日、マナは今度は自分を迎えに来たクローンに、シイナとは違う『お願い』をした。
「私が指示されたのは、あなたに運転の仕方を教えることだけですが」
声音に変化はないが、かすかに訝しげな表情で男は問い返す。
「ええ。でも、あなたはそれ以外のことも知ってるんでしょ。それを全部教えてほしいのよ。例えば、これが故障したときは、どうすればいいのかとか、そういうことを」
「ですが、それは博士の意志に反します。我々クローンは博士の指示に逆らうことは許されません」
「博士には黙っていればいいのよ。でなければ、あたしがあなたを処分するわよ。それがいやなら、さあ、教えて」
穏やかな脅迫だった。
彼等クローンには、人間に逆らうことは許されていない。
触れなくても、マナには目の前の男の怯えが伝わった。
罪悪感に、胸が痛む。
処分。
同じ命に対して、そのような傲慢な態度にでる権利を有する『人間』に、強い嫌悪を覚えた。
「――ねえ。あたしたちがここで何をしているかなんて、いちいち全部報告する義務はないんでしょ。あたしたちはただ余計なことさえ言わなきゃいいのよ。ばれやしないわ。そうでしょ?」
「…それは、そうですが」
「じゃあ、教えて。あたし、どうしても知りたいの。お願いよ」
真摯な眼差しで見上げるマナに、男は小さく溜息をついた。
「わかりました。では、始めましょう――」


