マナがここへ戻ってから、すでに二週間が経っていた。
 シイナはフジオミに言ったとおり、マナの懐柔に努めていた。
 決して無理強いはせず、以前と同じように宥めるように説得を繰り返す。
「ねえ、博士。何度も言ったわよね。あたし、ユウが好きなのよ」
「ええ。それはわかるわ。でも、それは問題ではないのよ」
「博士、聞いて――」
「ああ。マナ、いい子だから、落ち着いて考えてみてちょうだい。あなたには大切な使命があるのよ。あなたにしか、できないことなのよ。無理強いはしたくないの。あなたはいい子だもの。きっともう少ししたら私の言っていることがわかるはずよ」
 そう言ってシイナは部屋を出ていった。
「ユウ……」
 マナは泣きそうになるのを必死で堪えた。
 シイナはマナの話を決して真剣に聞いてくれようとはしなかった。
 子供を宥めるように教え諭すだけだ。
 マナが何を言っても取り扱ってくれることもない。
 マナは失望した。
 思ったとおりに、ここでマナと真剣に話をしてくれる者などいない。
 自分はかごの中で飼われる動物のようだと、マナは思った。
 シイナには、危険だからと許可してもらえなかったけれど、せめて外に出たかった。
 風が吹く、土の上に立ちたかった。
 ここは息がつまる。
 止まった時間の中でゆっくりと生きているように、全てが緩慢で、味気ない。
 ユウが来る前に、このままでは自分のほうがおかしくなって死んでしまうような気さえ、していた。
 そして、何よりマナは恐れていた。
 失望が憎しみに変わることを。
 かつてユウがシイナを憎んだように、自分の想いが憎しみに変わることだけは、いやだった。
 愛したものを憎むのは、つらいことだ。
 その愛が強ければなおさらに。
 シイナを、ユウを、愛している。
 だからこそ、愛し続けていたかった。