「フジオミ、一体どうしたんだね。こんな時間に。
 顔色が悪い――早く中に入りたまえ」

 低く響く優しい声に、フジオミは無言のまま従った。
 明け方近く、最後に彼が訪れたのは、カタオカの自室であった。
 おそらくは一睡もしていないのであろう。
 力なく椅子に座り込んだまま、両手で顔を覆ったフジオミを、カタオカはじっと見つめていた。
 そして、幾分察してためらいがちに声をかけた。
「シイナか。彼女と何かあったんだな」
「愛しているんです。僕は、彼女を愛してる――気づかなければよかった、こんな想いに!!」
 返ってきたのは、悲鳴にも似た、苦しげな叫びだった。
 肩を震わせ、声を殺して泣くフジオミは、以前とはすっかり変わっていた。
 そして、憐れだった。