これ以上進めないほどに廊下を走り、シイナは呼吸も荒く壁に手をついた。
 息を整えようにも、乱れた感情が邪魔をする。
 心臓が痛むのは走ったせいばかりではなかった。
 フジオミに対する怒りが、これ以上ないというほどこの感情を支配する。
 よりにもよって、あの彼が、カタオカと同じように愛を口にしたのだ。
「愛、ですって? 馬鹿馬鹿しい」
 痛む胸を押さえ、絞りだすように言葉をもらす。
 うんざりだった。
 どいつもこいつも、今更のように愛という言葉を振りかざす。
 愛に何の価値がある。
 何の意味がある。
 愛情で、世界は救えない。
 滅びゆく人間を救えるのは、愛ではない。
 それがなぜ、誰にもわからないのだ。
 わかろうとしないのだ。
「――っ!!」
 シイナは拳を、壁に振り下ろした。
 何度も何度も。
 怒りはすでに限界に達していた。
 救う気がないのなら、死んでしまえばいいのだ、誰も彼も。
 努力もせずにもういいなどというのなら、邪魔をするな。
 くだらない言い訳などいらない。弁解など、欲しくない。
 滅びを運命というのなら、あらがってみせればいい。
 救う術があるのに、なぜ行使しない。
 なぜあきらめる。
 あきらめるのなら、いっそもっと早く、あきらめてくれればよかったのだ。
 それこそ、自分が生まれる前に。

 この世界を、こんなにも呪う前に――