シイナは研究室の備え付けの小部屋でコーヒーをいれていた。
その横顔を、フジオミはじっと見ていた。
「――」
シイナは美しかった。だがそれは、全てを排除する美しさだった。
他を受け入れない孤高の、それこそがシイナ自身を表すもの。
フジオミはしばらく彼女を見つめて、それから中に入った。
「フジオミ!?」
彼に気づいたシイナが立ち上がる。
「やあ」
「こんな時間に、こんなところで何をしているの!」
「答える前に、コーヒーをごちそうしてもらいたいんだがね」
部屋に漂うコーヒーの香り。シイナは少し戸惑ったようだが、結局フジオミを迎え入れた。
「ブラックでいいわね」
「ああ」
シイナはメーカーを作動させた。ほどなくしてコーヒーの香りが一層濃く部屋に漂う。
黙って手渡されるカップに、フジオミも黙って手を伸ばす。
「――こんな時間まで、君は何をしていたんだい?」
「ああ。先月第一ドームで起きた事故の記録を見ていたのよ、あなたの方が詳しいんじゃない?」
「あの、配水管の故障かい?」
「ええ。最初の報告書にはドームを通る配水管の故障としかなかったけれど、原因の究明にかなりの時間がかかって、被害が大きくなったのよ。実際は動力炉の異常過熱による負荷が原因だそうよ。起こってしまったものは仕方がないけれど、こんな簡単な報告書でミスを隠そうなんて馬鹿らしくて。もう少しましな言い訳のできる者がいないものかしらね。これだから無能な者に管理を任せられないというのよ」
溜め息をつくシイナを、フジオミはじっと見つめていた。
不用意な言葉さえ口にしなければ、彼女を怒らせたりはしないのだ。
こうして見ていられるだけで穏やかな気持ちになれることも、フジオミは初めて知った。


