ここにいるのは、出会った頃の何も知らない愛くるしいだけの少女ではなかった。
それまで残っていたあどけなさも、今はもうどこにも見られない。
シイナの投与した薬物は、マナの身体のみならず、精神までも変化させたのだろうか。
それとも――
「君を変えたのは、ユウか……」
一瞬、マナが息をのむのがわかった。
堰を切るように、見る間に瞳に涙が溢れた。
「ユウ――そう、彼を愛してる。誰よりも、愛してる。想うだけで、涙が出るほど。
彼があたしに教えてくれたの。全ての意味を、彼が教えてくれた。
理屈ではない言葉を。
偽りではない心を。
義務ではない愛情を。
愛情がないから、欲しないのよ。欲しないから愛せないの。
欲望は、何かを強く愛することだもの。それがないから、希望も未来も閉ざされたのよ」
「――」
「あたしは何も知らなかった。だから、気づけなかった。ずっと信じていたのよ。あなたと博士は何でも知っていて、何でもできる、〈大人〉なんだって」
マナは小さく微笑った。
涙が頬からこぼれ落ちた。
「でも、そんなのみんな嘘。
あなたたちは子供のままなんだわ。
何も考える必要もなく、生きるための何の苦労もない。だから、今を生きることの意味を考えられない。だから、生き続けることにしか執着できない。そうやって何かを犠牲にして踏み躙ってきたのよ。
人の痛みをわかれないのに、自分のことだけは正当化できるの。そんな人間が大人のはずがないわ。
あなたたちは永遠に子供のままなの。この閉鎖された空間の中でしか生きられない、可哀相な子供なのよ!!」