偽るつもりも、フジオミにはなかったのだが、こうも率直に問われようとは思っていなかった。

「――いいや。好きだが、それは愛じゃない。僕は君を愛していない」

 穏やかな口調で、表情も変えずにフジオミは言う。
「それでも、あたしを抱くの?」
「愛しているから抱くんじゃない。これは義務だ。愛情で成り立つ行為なんて、もう存在しないよ。そもそも、愛情なんて、僕等の中にはありはしないんだから」
 フジオミは穏やかな言葉の奥で、何かが荒れすさんでいくのを止められなかった。
 不毛な会話と、意味のない義務感が、精神を磨耗していく。
 フジオミは全てに疲れていた。
 もう何もかもが意味すらないような、そんなふうに。

 だが、目の前にいる、この少女は何なのだろう。

 自分と同じ人形でありながら、その瞳の、なんと若々しい力に満ち溢れていることか。
 そしてさらに、少女はその力で、残酷な真実で、フジオミに堪え難い苦痛を刻みつける。
「違うわ。愛しているから抱くのよ。心も身体も、愛しているから欲しいんだもの。フジオミは、博士を好きだから抱くのよ。子供をつくれなくても、博士が好きだから抱きたいと思うのよ。あたしを抱いても、それは博士の代わりなんだわ。フジオミはいつだって、博士のことしか考えてなかったじゃない」

「そんな話をしにきたんじゃないんだよ!!」

 反射的に、フジオミは叫んでいた。
 だが、すぐに我を忘れ取り乱した自分を恥じた。
「すまない――」
 マナは怯まずにじっとフジオミを見据えていた。
 強い意志を宿した瞳を、していた。
「フジオミは、本当はどうしたいの? 博士を好きだから、博士の望みをかなえてあげるの? あたしを愛してもいないのに? そんなの、間違ってるわ」
 フジオミは驚いたようにマナを凝視した。