一方、フジオミの言いたげな思いを、マナは敏感に感じ取っていた。
後悔が、彼女を侵食し始める。
本当に、これでよかったのだろうか。
今ユウと離れて、本当によかったのか。
できることなら、今すぐに引き返していきたかった。
だが、戻ってどうなるだろう。
今のユウではマナを連れて逃げることはできない。
ましてや自分がユウを守り、連れて逃げることも。
だから、今はユウの能力と、あの言葉を信じるしかなかった。
マナのためなら、何でもしてやる。
脳裏に響くユウの声。
心は、これが正しいと知っている。
ユウは約束を破らない。決して。
信じている。
他の誰でもなく、ユウを、ユウだけを信じている。
(おじいちゃん。どうか、ユウを守って)
だが、その思いは背後で起こった遠い爆発音に断ち切られた。
「!?」
振り返ったマナが窓越しに見たものは、たちのぼるコンクリートの灰色の粉塵のみ。
記憶にある懐かしい廃墟は、ヘリがさらに高く飛びたった後にさえ、見ることは叶わなかった。
「博士、どうして!!」
「あんなものを、放置しておいたからよくなかったのよ。滅びを迎えた醜い廃墟はもう意味がないものよ、マナ。いっそ壊してしまったほうがいいのよ」
平然と、シイナは言った。
「こんな原始的な世界で今まで生きていたこと自体が異常なのよ。もっと早く気づいて始末しておくべきだったわ」
その時、マナは悟った。
シイナの内にある壊れた優しさを。
欠けた愛情を。
そこにいるのは間違いなくマナの愛した、けれど幼いユウを殺せた女なのだ。
目の前が暗くなるのを、マナは感じた。
「――」
呟きは、マナを抱きとめたフジオミにしか聞こえなかった。
救けて、ユウ。
そう、マナは呼んだのだ。