ノックの音に、フジオミは目を覚ました。
「はい?」
 まだ夜明けには時間があるのだろう。
 ほんのりとうす明るい室内でそれを理解する。
 急いでベッドを出、フジオミはロックを解いてドアを開けた。
「お早よう、フジオミ。ごめんなさい。こんなに早くに」
「いや、いいよ。どうぞ」
 身体を引いて、フジオミはマナを中へ迎え入れた。
 ドアを閉じるなり、

「フジオミ、あなたをドームへ帰すわ」

 マナの澄んだ声が耳に届く。
 秘かな確信とともに振り返る。
「君はどうするつもりだ? ユウと残るのか?」
「ええ」
 確信どおりの答。
 マナは微笑んだ。
 あどけない表情で。
 次にかける言葉を、フジオミは一瞬で考え直さねばならなかった。
「そうだな。君なら、できるな――」
 この笑顔の前に、それ以上何が言えようかと、フジオミは笑った。
「あなたはあのドームで一生を終えるの?」
「僕は君とは違う。あそこでしか生きられない。だから帰るよ」
「後悔はないの?」
「ない。僕は僕にしかなれないから、ありのままを受けとめる。例えそれが、君にとって歪んで見えても」
「博士と、生きるのね」
「できることなら」