遠くで、自分を呼ぶ声がする。

 マナはその呼び声に、驚いた。
 これが夢なのだということを忘れていた。
 近づく声は、やがて懐かしい姿を現す。

(おじいちゃん!!)

 マナはかけより、老人に抱きついた。

これこれ、マナ。

(会いたかったの。おじいちゃんに、本当に会いたかったの)

 しがみついたまま、マナは顔を上げた。
 前と何ら変わることのない、懐かしい老人の顔がある。

(今おじいちゃんはどこにいるの? 死んだ人達が行く場所に、いるの?)

私達はどこにも行かないよ。ずっとここにいるんだよ。おまえたちと同じ世界に。

(土に、なったの?)

そうでもあるし、そうでないとも言える。私達は、地球と同化したのだ。

(地球? 今、あたしが立っている、球体のことよね?)

そうだ。死もまた消滅ではありえなかった。肉体は失われても魂はここにある。私達は、全ての命を産み出した世界へ、もう一度還ったんだよ。

(命って、何なの? どこから来るの?)

 聞いた瞬間、マナは風を感じた。海から来る、あの風を。
 さあっと足元を水が包んだ。
 下を見ると、マナは海にいた。足首までの水が風にさざめいていた。

命は、太古の海から産まれた。海は、地球から産まれた。地球は、宇宙から。たくさんのほんの些細なきっかけから、たくさんの奇跡が産まれた。今ここにおまえさんやユウが存在していること、これこそが、奇跡なんだよ。

(海の向こうには何があるの)

 老人は静かに腕を上げ、指差した。

ありのままの命が。全ての命が存在する世界が。

(そこでなら、あたしたち生きていける?)

 マナの言葉に、老人が満足げに頷いた。