よく晴れた一日だった。
 風は強すぎることもなく、眩しい日差しに穏やかな余韻を与えている。
「ユウ、海だわ」
 マナが浜辺へかけていく。
 途中、靴を脱ぎ捨て、海へと入っていこうとする。
「マナ、危ないよ」
「大丈夫よ。こうしてみたかったの。いい気持ちよ。ユウもどう?」
「まだいい。行っていいよ。ここで見てる。見て、いたいんだ」
 マナは頷いて、海へと駆け出した。
 打ち寄せる波にためらうことなく入り、浅瀬を歩いていく。
 風が長い髪を後ろにさらい、靡いていた。
 楽しそうに、マナは笑っていた。
 そんなマナを見て、ユウも知らず穏やかに笑っていた。
 初めて海を見せてくれたのは、老人だった。
 でも、その時は、もっとたくさんで来たのだ。
 大勢で、お弁当を持って。
 だが、自分は今のマナのように明るく楽しむこともせず、ただじっと、海を見ていた。
 ユカを失った痛みを癒せずに、差し伸べられていたあたたかな手を拒んでいた。
 そんな自分にも、みんなは優しかった。
 惜しみない愛情をそそいでくれた。
 優しい想いに満たされて、癒されない傷も、やがて忘れることを覚えた。

 流れていく、穏やかな日々。

 本当に、たくさんの人が、ユウの人生にかかわってくれた。
 ユカが自分を見てくれなくても、幸せになれることも知った。