数日後、ユカの容体は急変した。
 慌ただしく、事態は悪化の一途をたどっているようにも思えた。
 眠り続けるユカ。やつれた頬は青ざめて、残された時間が少ないことを確信させる。
 介抱しようにもここには何もなかった。
 傍にいるだけで、ユウにもマナにもどうすることもできない。
 傍にいて、はっきりとわかった。
 ユカは死ぬ。もうすぐ。確実に。
 マナはただ、ユウを思った。
 彼はまた、失わねばならないのだ。
 自分の母を。
 彼があんなにも望んだ、かけがえのない、唯一のものを。
 彼女に触れた時、マナは理解してしまった。
 彼女もまた、誰にも言えない影を心に持っていたことを。
 自分に課せられた使命に対する誇り。
 裏腹に失われていく生命への絶望。
 それでも望まれる生命への重圧。
 そして、隠された愛憎。
 マナにはわからないさまざまな感情が、残り火のように彼女の中に沸き上がり、消えていく。
 義務と自分自身の想いの中で、ユカは少しずつ壊れていった。
 彼女はたくさんの子をなし、けれどもユウ以外の誰も、生かし続けることはできなかったのだ。

(可哀相なユカ)

 ユカを見下ろし、マナは思う。
 彼女の求めたものもまた、決して手に入らないものだったのか。
 そして自分は、一体誰を失おうとしているのか。
  もう何もわからなかった。
 何を信じていいのかも。
 自分は一体、どうすればいいのだろう。
 マナには母親であった記憶などない。
 ましてや息子など知らない。
 マナにはマナの記憶しかない。
 それでも、確かなのだ。
 自分とユウは、最も近い血を繋ぐ親子なのだ。

 この想いは、決して許されない。

 許されないのなら、なぜこんなにも愛しいのだろう。
 心も、身体も、全てがユウを求めているのに。

「おじいちゃん、救けて…!!」