「親子――」

 その言葉が小さくもれるまで、どれほどの時間が経ったのだろう。
 不意に老人の言葉が甦る。

母と息子。父と娘。彼等は最も惹かれあってはならないもの同士だ。なぜなら彼等はその身に最も近い血を宿しているからだ。

 惹かれあってはならない。
 それは、〈伴侶〉としてはならないこと。
 ああ。何ということだろう。
 では、昨日の自分達の行為は――混乱と後悔で、思考がかけめぐる。
 それは、ユウが今日の朝感じていたものと、よく似ていた。
 知っていたのだ、みんなが。
 知っていながら、教えてはくれなかった。
 ユウの求めるものは、決して手に入らないもの。
 手に入るはずがない。
 ユウが求めているのは、母親なのだから。
 だが、自分がいる――母親のクローンである自分が。
 だからさらってきたのか。
 自分は、身代わりか。
 混乱の中、それでもマナは気づいてしまった。
 ユウが、自分にだけは隠しておきたかった最後の秘密にも。
「ユウ、あそこにいるのは誰!? ねえ、一体誰なの、教えて!!」
 立ち尽くすユウ。
 怯えたようにマナを凝視してる。
「マナ、何を言ってるんだ?」
 訝しげなフジオミの声。
 だが、そんなことはもうどうでもいいのだ。
 自分は気づいてしまった。
 気づいてしまったのだから。
 踵を返し、マナは走りだした。